InterCity Experimental [欧州鉄道]
随分昔の話になるが、1988年には私はドイツのBremenの語学学校で大学入学条件の1つであるドイツ語資格を取るための勉強をしていた。ここのドイツ語学習プログラムは1コース2ヶ月で途中遠足やお泊まり旅行などのお楽しみも用意されている。そのお泊り旅行は西ベルリンであった。基本的に現地での観光などは全て自由行動で、東西ドイツの壁のあった当時、東ベルリンへ行くクラスメイトがほとんどの中、私は西側のBauhaus Museumや交通博物館(Museum fuer Verkehr und Technik Berlin)がその目的となったのは言うまでもなかろう..。
上画像の交通博物館は、今は使用されていないAnhalterbahnhofの跡地近くにある。ここには、当時の機関区の転車台や機関庫を利用した博物館として利用されていた。当時は、戦争で焼け落ちてしまった駅舎の一部である石造りの入り口ファサード部分のみ残っていて、その美しく巨大なファサードにも多数の銃弾の跡が生々しく残っているのは、ちょっとした心の衝撃でもあった。
その日は、雪模様の寒空の中地図を頼りに出掛けたのであるが、そこにたどり着いた時、妙に人が並んでいるので、どうしたことかと思ったら、何と当時唯一のICE試験車両であるICE-Vが偶然にも訪れていて、その見学が出来るとのこと。運が良かった。現在は、その博物館も大改装され当時の面影もなかろう。
早速列に並んで乗車を待つ。何しろ当時から憧れていたNeumeister Designの作品である。緊張と興奮が醒めやらぬ中、ドアをくぐり車内の人となる。
2等車車内である。Apfelgruen(青リンゴ色)と呼ばれるシート生地は、モダンな車内の良いアクセントとなっている。ICE3との違いは、シート自体のデザインもNeumeisterによるものであること。
1等車車内は、落ち着きのあるエンジ色のシートで、基本的に1/2等車共開放室である。中央にワードローブ兼荷物置き場があるのは、量産車に引き継がれている。天井の造形は、ICE3やJR500系にも通じる典型的なNeumeisterのデザインである。
1等車シートのディテールである。テーブルは座席の肘掛けに収納するタイプで、回転軸にあたる部分がコップのトレーと兼用になるデザインである。肘掛けの座席側にあるスイッチ類は大きめで扱いやすい。灰皿があるのは、80年代であるから。
1等車にあるラウンジ。ホワイトベージュのソファのある半個室のような作りである。このあたりも後のICE3/T(D)の1等区分室や家族室のデザインに活かされているのかも知れない。
デッキ部分にあるFIS表示器。今ではIC/EC客車にも設備されているFIS(乗客用情報システム)であるが、当時は画期的なシステムであったが、白黒の液晶表示であるのは致し方あるまい。
電話室の公衆電話。電話の受話器迄デザインされている。
撮影した画像は以上であるが、考えてみればここに来て本来の目的である歴史的な車両はほとんど見ていなかったのを後で気がついた。それほど突然初めて見るICE-Vに感動を憶えた出会いだったのである。もちろん一目惚れ状態であったのは言う迄もない。
その後、1990年の春にミュンヘンのDB Design Centerにて半年間の実習をする機会に恵まれたのだが、ちょうどその年はICEの営業運転を控えた時で、3月の末の初めての実習日に初めてミュンヘンに到着したICE1を見る機会にも恵まれた。ただ、そのICE1はNeumeister Designではなく他のデザイン事務所の作品で、明らかにデザインとして見劣りのするものであった。もちろんICE-Vをそのまま量産するにはコスト的には合わないが、違うデザイン事務所がすると、やはり結果は違うのである。
先日ここで紹介したBRAUNのトースターと、このICE-Vのデザインは、全く違うアイテムであるにも関わらず、非常に近いデザインであるように私は感じている。実はBRAUN社は60年代ウルム造形大学というバウハウスの思想を受け継いだ教育機関と深い関わりがあり、Neumeisterは、ここの大学の卒業生である。
さて、メルクリンではもちろんこのICE-Vは製品化されているが、既に生産完了になって久しい。近いうちに、このモデルの紹介をしてみたい。
参考サイト:Deutsches Technikmuseum
http://www.sdtb.de/Schienenverkehr.94.0.html
ICE-Vの感動が伝わってくる貴重な写真やレポートをありがとうございます!!
量産車ICE1がNeumeister Designでなかったのは、残念でしたねー。いろいろな裏話もありそうですが、...でも、マーケットに良さを理解させるには、悪いものを先に経験してもらうということも必要なんですね。
by まおパパ (2009-03-15 02:52)
まおパパさん、こんにちは。
鉄道業界なんて政治的意図なしでは何も始まりませんね。それはドイツに限らずいずこも同じ...。でも結局ICE3がNeumeister Designになって、結果はご覧の通りです。
by Akira (2009-03-15 07:09)
久しぶりに見ると良い形をしてますね。私が印象に残っているのは連結面のダイヤフラムと言うんでしょうか、あの見事な球面対偶、歯車が発達したのがドイツで、チェーンが発達したのがアメリカ、なんて言う話を思い出したりして、それをまた模型で再現してしまったメルクリンに仰天した記憶があります。
ICE-Vを見せていただけるのを楽しみにしています。カタログではよくわからなかったので、あの連結面が、急カーブでどう動くのかをお見せいただけると、とってもうれしいです。(買ってないのを後悔するだけだったりして)
日本の「こまち」も、試作編成は格好良かったのが量産車はICE同様、カバみたいになってがっかりしたのをついでに思い出しました。
by N (2009-03-15 18:05)
こんばんは、Nさん。
ICE-Vの大きな特徴の一つが、あの全断面幌と呼ばれるボディと一体になる幌でしたね。実に画期的かつ美しい処理でしたが、ICE1以降は採用されませんでした。実用的には問題はなかったようですが、コスト面で断念されたようです。
メルクリンH0でも、あの特徴的な幌は実物同様に再現されています。ボディの妻部が平面ではなく、球の一部を切り取った形になっていて、幌は上下左右にスライドします。さすがにR1を曲がる時は、幌のズレが大きく車体から大きくはみ出しますが、直線上や緩いカーブでは、列車全体の一体感が強調されて美しさが際立ちます。
by Akira (2009-03-15 21:31)
Akiraさん、おはようございます
実はICE-Vを見るのは写真で見るのも初めてです。88年当時ということを考えるととても斬新に思えてきます♪
そして今のICEのロゴもすきなのですが、この車両の側面のICEのロゴの方が少し可愛く出好きですね。
予断ですが、とある漫画の見すぎかどうか解りませんが、正面のライトと、連結器カバーを見て、ぽかーんと口をあけた子みたいでちょっと可愛いなぁと印象が・・・(汗
by hioka (2009-03-16 09:42)
hiokaさん、こんにちは。
hiokaさん、お若いですものねぇ。このICE-Vは、確か1984年登場だったか?確かメルクリンデジタルと同じだったのではないかと思います。メルクリンデジタルの広告に良くこのICE-Vのモデルが登場していました。お互いに先進的だったのでしょう。
ICEのグラフィクも確かNeumeisterのデザインだったと思います。とにかく画期的で、実車登場当時、美大に通っていた私は教授から最も優れたプロダクトデザインを選んでみなさいという宿題で、迷わずこのICE-Vの写真を見せました♪
全面から見ると、確かに連結器収納庫のパーティングラインがマスクのように見えて、妙に可愛らしく見えてしまいます。
これでも、高速試験では406Km/hを超えて当時の最高速度を記録したほどのポテンシャルの持ち主です。(フランスで試験したらもっと早かったかも?)
by Akira (2009-03-16 15:11)
はじめまして。ICE-Vはメルクリンのカタログ(透明のICEが表紙)で知ったのですが、実際に模型を見た事がありません。Fleischmannの製品は持っています。メルクリンのカタログを見る限りではTOMIXの新幹線のような連結幌のように見えますが、実際はどんなかんじなんでしょうか。Fleischmannのは直線では一体感がありますが、曲線では妻板が丸見えです。なんとかTOMIXのように妻板が見えないようにしたいものです。
by ICE-V (2009-04-02 01:02)
ICE-Vさん、こんにちは。Spielkisteへようこそ。
メルクリンモデルの連結部分は、基本的に実車と同様の構造になっています。つまり、全断面で一体化された幌部分が球形の車体妻部に合わさるような構造で、直線は勿論曲線部分では車体と幌部が別パーツとしてスライドするので、確かにR1などの急カーブでは球面上の妻部が外R部分からは見えますが、変な違和感はないです。
機会があったらモデルを紹介するつもりですので、しばらくお待ちを。
by Akira (2009-04-02 08:52)