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島秀雄の世界旅行 1936-1937 [欧州鉄道]

最近近所の本屋へ行くと必ず(立ち?)読む本がある。今日も本屋でいつもの棚へ見に行くと無くなっていた...しかし、前回でほぼ読み終えていたので何とか間に合った...という感じなのだが。

何故立ち読みに徹したかと言えば、この本は高価であるからである。相対的には決して高いとは思わないのだが、金欠中の私には絶対的な金額として高価なため、買うことができない...ただそれだけである。

さて、この本は「島秀雄」が1936年から37年に果たした洋行(ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ)時に撮影したスナップとメモを纏めたものである。彼はご存知のように新幹線の生みの親と呼ばれる男である。彼の父(島安次郎)は、日本の狭軌を欧米と同じ標準軌に変えようと努力したが、それが果たせず、逆に責任を取って一線を退くことになったが、彼の長男であった秀雄が新幹線という形で標準軌の世界初の高速鉄道を作ったのである。(彼は蒸気機関車の設計で技術者としての才覚はもちろんあった)なぜ0系新幹線車両の営業最高速度を210Km/hにしたのか?など素朴な疑問にも「父安次郎が欧州視察旅行(ドイツ)で見たAEGの高速試験電車が時速210.3Km/hを記録したとかの話を秀雄が幼い頃聞いたから」という同書の監修を行った秀雄の子隆が推察しているのは面白い。当時の新幹線は何もかもが世界初のため、最高速度の設定には諸説あると思うが、一般的には1960年代初頭にはドイツで設計段階のE03やE10.3が200Km/hの営業運転を目指していたはずで、日本はこれを超えたかったことと思うが、幼いころ父から聞いた試験速度と同じというのも何か頷けるものがある。

当時の洋行は今とは全く違うことも興味深い。もちろん戦前なので横浜港から神戸港経由でフランスのマルセイユ港に。そこからPLMを使ってパリへ。パリから滞在先のベルリンへ行き。当時ナチの台頭するドイツ帝国の首都ベルリンでの滞在や興味深いのは日本人街まであったこと。スナップ写真はベルリンの日本レストランやナチの旗が翻るベルリンの街並。そしてベルリンを拠点に欧州各地への鉄道視察の旅の様子の写真の数々である。何故か当時最新であったSVT137など高速気動車の写真がないことはひっかかるのだが、リューベックの高速2階建て客車列車のスナップなど当時の貴重な写真があますところなく掲載されている。

とかく我々は、車両だけに眼がいってその車両が存在した時の背景を直視しないことが間々ある。しかし、この本は車両よりもまず時代背景や社会的な背景をいやがうえにも理解した上での車両の考察がある。どの車両もその目的があり、目的は社会的な背景なりその時々の事情があって出来るものである。

洋行を果たした島が欧州から同じ狭軌のアフリカ、そしてアメリカ大陸で視察をしながら日本に戻り戦後新幹線の開発に取り組んだが、この書に記された洋行の記録は彼の持つアイデアの源になったに違いない。今やドイツのICE3などの最新の新幹線車両は日本同様電車である。私はまだまだドイツに学ぶべきことは少なからずあると思うが、少なくとも鉄道技術は世界一と呼ばれる日本の鉄道は、島秀雄など戦前のドイツを始めとする欧州の鉄道なくしては果たせなかったように思う。彼らの軌跡を読むにつけ、つくづく羨ましいと思うと同時に帰国後の並々ならぬ努力を何故かこの本から感じてしまうのである。

お金に充分余裕のある方は是非手に取って読まれることをお薦めするものである。



島秀雄の世界旅行 1936-1937

島秀雄の世界旅行 1936-1937

  • 作者: 高橋 団吉
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2008/11/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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コメント 11

seidoh

Akiraさん、こんにちは。
私は年初に本屋で見付け即座にAmazonのカートに保存したまま、なぜか早や半年が経過してしまいました。
洋行が限られた人達だけの特権だった当時に比べ、情報だけならネットで安直に入手できる現代の「便利さ」は言うまでもありませんが、その分、苦労して現地に赴いた末に初めて新事実を発見したときの「幸福感」は、むしろなかなか味わい難くなっているような気がします。やはりいい意味での渇望がないと、(自戒を込めて)進歩しないのだろうと思います。
それはともかく、安くはない本ですが大雑把に言ってメルの客車一両分と考えれば、そろそろポチッと行きますか・・・。
by seidoh (2009-06-18 12:51) 

Akira

seidohさん、こんばんは。

仰るとおりですね。まだ船でしか行けなかった欧州は、本当に遠いところだったと感じたはずです。逆に今は10万円も掛からずに欧州往復が片道11時間で行けるなど夢のようでありながら、簡単に行けてしまう安直さは便利な反面、感動も薄いのかも知れません。そんな遠い欧州旅行をアルバム風に纏めたこの本は、事実だけを伝える資料としての価値を感じます。でも、中々買えませんね〜。メルクリンの本なら買えてしまうのに...。
by Akira (2009-06-18 22:36) 

Bemo

Akira さん

 この本のこと、はじめて知りました。ありがとうございます。

 0系新幹線といえば、この旅行中には運営されていた?レールツェッペリンが影響を与えているといわれていますね。
 メルクリンの1番のレールツェッペリンも30年代に発売されたのでしたっけ?


by Bemo (2009-06-19 04:22) 

Akira

Bemoさん、こんにちは。

はい、この本にも島氏がSchienenzeppelinの試運転についての記述があったと思います。ただ、この車両はエンジンのパワーが大きく風力推進(羽根のない飛行機?)なので、周囲への影響が大き過ぎ実験のみで終わったそうですが。
私は、この車両の側面連続窓形状に現在のICEへの影響を見ています。日本の新幹線車両への影響は前面形状なのでしょうが、航空機からの影響とも聞いていますし...元は同じでしょうが。
メルクリン1番のレールツェッペリンについては、少し前にレプリカモデルがリリースされた記憶がありますが、オリジナルは確かそれくらいの時代だったかと...記憶が曖昧ですみません。
by Akira (2009-06-19 08:16) 

Bemo

Akira さん

 ご丁寧なレスありがとうございます。

 ご紹介された本、書店か図書館で探してみます。

by Bemo (2009-06-20 09:45) 

Akira

Bemoさん、こんばんは。

買う買わないは別にして、是非一度手にされることをおススメします。
by Akira (2009-06-20 22:18) 

Bemo

Akira さん

 図書館の分館に蔵書があったので予約しました。

 ドイツ以外の国々にも訪問されているので、読むが楽しみです。

by Bemo (2009-06-21 22:51) 

exp_amanogawa

Akiraさま
お久しぶりです。
日曜日は私用で北関東に行き、高崎で少し時間があったので、1/17の日記の、商店街の電気屋さんの看板ネコの「みいちゃん」に会ってきました。

当時としては、海外に行ける人はほんの一握りの人だけだったのだと聞いています。
鉄道省が「世界最先端の鉄道を見て勉強して来い」と言ったのかどうかは定かではありませんが、
この時の成果が、今の日本の鉄道技術に大きな影響を与えているのは確かだと思います。

自分もまた鉄道に関する技術でメシを食ってる立場ですが、
日本の鉄道が世界一だからといって、世界の鉄道を見ずにいるのではなく、
日本の鉄道のためになるなら、海外の技術を謙虚に認めつつ、積極的に吸収するように勉強することが、大事だと思います。
それは、今も昔も、変わらないことだと思います。

この本、何らかの方法で入手して、読みたいと思います。

by exp_amanogawa (2009-06-22 00:55) 

Akira

> Bemoさん。

図書館という手がありましたね〜。我が街の図書館はとても30万人超え都市とは思えないほど貧弱な図書館ですが、蔵書にない場合は申し込めば買ってくれるなどの良いサービスがウリなので、本屋で立ち読みするより借りた方が良かったかも...。

> exp_amanogawaさん。

「みいちゃん」を見て来ましたか。昨日は仕事で1日家を空けていましたが、次の機会はお声掛けください。みいちゃんは、如何でした?我が家のミースケに比べて半分以下?の大きさのネコですが、穏やかなネコで触ってもまったく嫌がらないのには驚きです。看板ネコの才能は備わっていますね。

私がドイツで仕事をしていたとき、日本の鉄道技術のレベルの高さや緻密で正確なダイヤ運行についてはいつも高い評価を耳にしますが、デザインも含めて乗客とのインターフェースに関しては、まだまだドイツなどの欧州鉄道の域に追いついていないことがわかります。これは鉄道だけの話ではないですが、逆にこれまで日本がトップレベルになる時は、私は欧州型模型趣味もやめてしまうかもですね。
by Akira (2009-06-22 07:53) 

Bemo

Akira さん

 昨日、図書館で予約していた本を受け取りました。

 当時の雰囲気がよく分かる読みやすい本ですね。

 掲載された機関車への島秀雄の評価があればいいと、思えるのですが。
by Bemo (2009-06-27 14:48) 

Akira

こんにちは、Bemoさん。

表題の本が手に入って良かったですね。
掲載された機関車の評価ですが...この本にも書かれてあるように中々見学などの許可が出なかったとか..。当時のドイツの鉄道は世界で1、2を争う技術を持っていましたから、当然のことながら彼も学びに来ていたと思います。そういう意味では評価出来る程上からモノを見ることができなかったのかも知れません。(もちろん彼なりの感想はあるとは思いますが...)
by Akira (2009-06-27 17:15) 

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