JR500系のデザイン [デザイン]
欧州鉄道やメルクリンモデルを主なテーマとしている当ブログに記すには、やや違和感を憶えるのだが、今日は特別な想いのある雑誌が発売されるので、敢えて記すことにする。
実は、私の所属するJIDA乗り研の会長である橋本氏から、近々東海道新幹線の定期運用から姿を消す新幹線500系について、その最も象徴的でありながらも、敢えて意図的とも思われる程にベールに包まれていたデザインについての執筆をするためのお手伝いを依頼され、そのエクステリアデザインを手がけたドイツの代表的なデザイナーであるAlexnder Neumeister氏の仕事について、私が持つ幾つかの資料を提供することになった。
500系新幹線と言えば、あの特徴的なロングノーズとキャノピーが話題になるほど、今迄の新幹線とは一線を画したエクステリアデザインであるのは今ここで語るまでもないが、そのデザイナーの言葉が直接500系のデザインについて雑誌として記事化した誌面は初めてであると思うし、今迄何故かそれそのものがタブー化されていたようにも思う。500系の造形的なアプローチについての記述は遅きに失した感は免れないが、待ち望まれたものであり、今回の記事「デザイナーの思い 500系の生みの親、ノイマイスター氏に訊く理想の新幹線」は、その答えとしては充分なものになったと思う。
ここでは、彼について既にこのブログでも幾つか触れたことがあるので、多くは触れないがドイツのICE-V、ICE3、ICE-T(D)、CNLの2階建て寝台客車、歴代トランスラピッド、ミュンヘン地下鉄C3など、少なからずドイツの重要な鉄道の仕事を手がけたデザイナーである。また、日本でも500系の他、福岡市営地下鉄、東京メトロ副都心線車両のデザインについても彼が関わっている。
その彼が日立と協力してHST-350と呼ばれる当時の次世代新幹線を提案したプロジェクトから、500系に至る過程について橋本氏がメールインタビューしたのがこの記事の基である。原稿はもちろん、掲載画像や誌面レイアウト迄、彼が監修したのであるから、デザイン誌の記事に劣らぬものが完成した。それが日本の鉄道趣味誌に掲載されるのであるから、相当のインパクトであると私は思う。そしてこのインタビュー記事は、実に明快で核心をついている。彼の考える公共交通としての新幹線のデザインは、既にICE3などドイツの列車を良くご存知の方は、敢えて私がここで文章にする必要もないであろうし、それは誌面に充分に記されている。
その彼がICE2.2/ICT(ICE3/ICE-Tのプロトタイプ名)のプロジェクトを始める前に手がけたのが500系である。彼が直面した日本の新幹線の技術的問題に対する回答は実に明確であり、それを象徴するものがあの円筒形状の断面と言える。あの断面は、HST-350と同じであるというのは興味深い。
彼の言う現在の新幹線デザインの難しさは、500系で実現した折角のチャンスをその後逃してしまったことである。私自身も同感で、多くの500系ファンもそう感じているのかも知れない。
実は、彼が当初500系と同じ断面形状のHST-350のデザイン提案を行った時、開放室タイプのグリーン車の1:1(原寸)モックアップと、更に個室タイプである特別グリーン車の1:10サイズのインテリアモデルを提示したのである。今迄その画像自体をネットですら見つける事が難しかったのであるが、この誌面ではその両方を掲載できた。グリーン車のデザインはICE3に通じるガラスと木目と黒い(本革?)シートのコントラストが美しい。(いかにもノイマイスターデザインというもの)また、個室タイプの特別グリーン車は、非常に明快な日本の伝統を表現した空間を試みているのである。特に窓にはカーテンではなく障子を使っており、間接照明の光の調節が秀逸でモダンな和の空間づくりに成功している。
彼は、ウルム造形大学を卒業後、東京芸大へ留学している。彼は日本語を勉強し(出来?)なかった代わりに日本の伝統美をその肌で感じ取り、それがそれ迄ドイツで学んできたことや彼自身の美意識を日本では既に実現されていることを感じたと言う。それは、彼が最も優れたデザインとして掲げている茶道の「茶筅」がそれを象徴しているのである。
彼は、その感覚を更に洗練させる事が可能であるとドイツ人である彼自身が意識して取り組んだ結果がHST350の特別グリーン車のインテリアデザインであったと私は直感したのであるが、現実には残念ながら彼の全てのインテリアの提案はボツになってしまったのである。(その理由については、敢えてここでは触れない)ドイツでは、彼の提案したICE2.2とICE-Tのデザインが、量産車両のICE3/ICE-T(D)のエクステリア/インテリア共ほぼ受け入れられたのとは対照的な出来事となってしまったのである。(逆にエクステリアの方がインテリアよりも変更が大きかったほどである。)
改めてHST-350のインテリアデザインを誌面で見た時、もしこれが500系のインテリアとして採用されていたなら...と、私が撤退も近い車両に想いを馳せるのは、今でも充分に、最新の新幹線車両以上に魅力的であるからに他ならない。(山陽新幹線仕様の改造時に、あのデザインを取り入れたらと思うのは私だけであろうか?)
今回、ここまで踏み込んだ記事を掲載できた「新幹線Ex」の編集と橋本氏の連日徹夜での執筆作業に対しては、本当に頭の下がる思いである。この記事についてだけでなく、JR西日本の開発担当者へのインタビューもあわせて読んで頂ければ、より深い考察も可能となるのではないかと思う。500系ファンのみならず、ここを訪ねてくれる全ての皆様におススメできるものである。
全国書店店頭にこの雑誌が並ぶのは21日である。
参考サイト:新幹線エクスプローラ / イカロス出版
http://secure.ikaros.jp/sales/mook-detail2.asp?CD=T-ES-1014
実は、私の所属するJIDA乗り研の会長である橋本氏から、近々東海道新幹線の定期運用から姿を消す新幹線500系について、その最も象徴的でありながらも、敢えて意図的とも思われる程にベールに包まれていたデザインについての執筆をするためのお手伝いを依頼され、そのエクステリアデザインを手がけたドイツの代表的なデザイナーであるAlexnder Neumeister氏の仕事について、私が持つ幾つかの資料を提供することになった。
500系新幹線と言えば、あの特徴的なロングノーズとキャノピーが話題になるほど、今迄の新幹線とは一線を画したエクステリアデザインであるのは今ここで語るまでもないが、そのデザイナーの言葉が直接500系のデザインについて雑誌として記事化した誌面は初めてであると思うし、今迄何故かそれそのものがタブー化されていたようにも思う。500系の造形的なアプローチについての記述は遅きに失した感は免れないが、待ち望まれたものであり、今回の記事「デザイナーの思い 500系の生みの親、ノイマイスター氏に訊く理想の新幹線」は、その答えとしては充分なものになったと思う。
ここでは、彼について既にこのブログでも幾つか触れたことがあるので、多くは触れないがドイツのICE-V、ICE3、ICE-T(D)、CNLの2階建て寝台客車、歴代トランスラピッド、ミュンヘン地下鉄C3など、少なからずドイツの重要な鉄道の仕事を手がけたデザイナーである。また、日本でも500系の他、福岡市営地下鉄、東京メトロ副都心線車両のデザインについても彼が関わっている。
その彼が日立と協力してHST-350と呼ばれる当時の次世代新幹線を提案したプロジェクトから、500系に至る過程について橋本氏がメールインタビューしたのがこの記事の基である。原稿はもちろん、掲載画像や誌面レイアウト迄、彼が監修したのであるから、デザイン誌の記事に劣らぬものが完成した。それが日本の鉄道趣味誌に掲載されるのであるから、相当のインパクトであると私は思う。そしてこのインタビュー記事は、実に明快で核心をついている。彼の考える公共交通としての新幹線のデザインは、既にICE3などドイツの列車を良くご存知の方は、敢えて私がここで文章にする必要もないであろうし、それは誌面に充分に記されている。
その彼がICE2.2/ICT(ICE3/ICE-Tのプロトタイプ名)のプロジェクトを始める前に手がけたのが500系である。彼が直面した日本の新幹線の技術的問題に対する回答は実に明確であり、それを象徴するものがあの円筒形状の断面と言える。あの断面は、HST-350と同じであるというのは興味深い。
彼の言う現在の新幹線デザインの難しさは、500系で実現した折角のチャンスをその後逃してしまったことである。私自身も同感で、多くの500系ファンもそう感じているのかも知れない。
実は、彼が当初500系と同じ断面形状のHST-350のデザイン提案を行った時、開放室タイプのグリーン車の1:1(原寸)モックアップと、更に個室タイプである特別グリーン車の1:10サイズのインテリアモデルを提示したのである。今迄その画像自体をネットですら見つける事が難しかったのであるが、この誌面ではその両方を掲載できた。グリーン車のデザインはICE3に通じるガラスと木目と黒い(本革?)シートのコントラストが美しい。(いかにもノイマイスターデザインというもの)また、個室タイプの特別グリーン車は、非常に明快な日本の伝統を表現した空間を試みているのである。特に窓にはカーテンではなく障子を使っており、間接照明の光の調節が秀逸でモダンな和の空間づくりに成功している。
彼は、ウルム造形大学を卒業後、東京芸大へ留学している。彼は日本語を勉強し(出来?)なかった代わりに日本の伝統美をその肌で感じ取り、それがそれ迄ドイツで学んできたことや彼自身の美意識を日本では既に実現されていることを感じたと言う。それは、彼が最も優れたデザインとして掲げている茶道の「茶筅」がそれを象徴しているのである。
彼は、その感覚を更に洗練させる事が可能であるとドイツ人である彼自身が意識して取り組んだ結果がHST350の特別グリーン車のインテリアデザインであったと私は直感したのであるが、現実には残念ながら彼の全てのインテリアの提案はボツになってしまったのである。(その理由については、敢えてここでは触れない)ドイツでは、彼の提案したICE2.2とICE-Tのデザインが、量産車両のICE3/ICE-T(D)のエクステリア/インテリア共ほぼ受け入れられたのとは対照的な出来事となってしまったのである。(逆にエクステリアの方がインテリアよりも変更が大きかったほどである。)
改めてHST-350のインテリアデザインを誌面で見た時、もしこれが500系のインテリアとして採用されていたなら...と、私が撤退も近い車両に想いを馳せるのは、今でも充分に、最新の新幹線車両以上に魅力的であるからに他ならない。(山陽新幹線仕様の改造時に、あのデザインを取り入れたらと思うのは私だけであろうか?)
今回、ここまで踏み込んだ記事を掲載できた「新幹線Ex」の編集と橋本氏の連日徹夜での執筆作業に対しては、本当に頭の下がる思いである。この記事についてだけでなく、JR西日本の開発担当者へのインタビューもあわせて読んで頂ければ、より深い考察も可能となるのではないかと思う。500系ファンのみならず、ここを訪ねてくれる全ての皆様におススメできるものである。
全国書店店頭にこの雑誌が並ぶのは21日である。
参考サイト:新幹線エクスプローラ / イカロス出版
http://secure.ikaros.jp/sales/mook-detail2.asp?CD=T-ES-1014
Akiraさん
こんにちは460です。
JR西日本の500系新幹線は現役車輌の中で一番好きな車輌です。
たぶん私の中では歴代1位の車輌ですね。
鉄道雑誌にデザイン画が出た時は「実車では無理だよ」と思って
ましたが、それを見事に裏切られ、それ以上の感動と胸のドキドキ感は
今も忘れられません。
TGVやICEがドンドン進化していき、取り残された感があった日本の鉄道が
500系の登場で逆転した瞬間だと感じました。
「カッコだけじゃ無いぞっ!!」って言わんばかりに、
新技術が取り入れられたり、性能も優れてましたよね。
その500系が東海道を引退するのは本当に悲しです。
※山陽ではこだまで頑張ってます。
私はAkiraさんのブログで500系のデザインにドイツの血が流れてたと
知りました。その時も鳥肌が立っほど感動でした。
自分が好きだった車輌にドイツの血が流れてた・・・
私は知らず知らずにドイツに反応してるんだと。。。(笑)
早速ご紹介の本を発注しました!!
楽しみです。
by 460 (2010-01-20 10:08)
私も早速予約しました。折に触れて、500系がAlexnder Neumeister氏によるエクステリアデザインであったが、インテリアの方は採用されなかったと、Akiraさんに聞いていましたので、そのインサイトがある程度理解できる雑誌なのかと、「鉄」魂が揺さぶられる思いです。
楽しみですね~♪
このような特集記事の出版おめでとうございます!!>筆者並びに編集部の皆さん
by まおパパ (2010-01-20 10:57)
こんにちは、レスありがとうございます。
> 460さん
実は私は500系は量産車両が登場して初めてその存在を知りました。なので完成予想のスケッチを見た事がないです。私も500系の絵は子供にせがまれたりして良く描いたりしたことがあるのですが、あの長い鼻をどう見せるのか、ちょっと興味があったりします。
当時は、私の居た事務所内でも評判でした。ノイマイスターのデザインである事が後に理解出来た時には、皆で「なるほどね!」という印象を持ったのを憶えています。
> まおパパさん
あまり大きくは掲載されていませんが、HST-350のインテリアの画像は結構レアだと思います。是非ご覧あれ...。
by Akira (2010-01-20 11:13)
500系のデザインは日本型の中でも好きなので
その秘話となると楽しみですね。
500系の系譜が以後の車輌に受け継がれなかったのが実に悔やまれます。
by S.やくも (2010-01-20 22:21)
S.やくもさん、こんばんは。
私は700系が登場してその様子をテレビのインタビューで応えていたJRの方の妙な表現を憶えています。「私はこのスタイルが好きなんですが...」とか何とか。つまり自らも多くの方々が500系の方が良かったな〜ということを知っていた上で出て来た言葉なのだと..。
今の断面形状を固持する以上は、ノイマイスターは新幹線のデザインを引き受けないでしょうね〜。残念ですが...。
by Akira (2010-01-20 22:33)
こんばんわ、500系ってファンが多いんですね。最近の新幹線の前頭部は突然変異と進化を繰り返す数値実験のプログラムで作られるんだそうで、空気の流れに四角い断面を押し込む条件を入れると、結果、ああなるんですね。と、いうことは、500系は人がデザインした最後の新幹線になるんでしょうか。500系の先、空力的には、あそこまで長くなくてよかったそうですよ。でもあの方が格好いい。航空工学の佐貫亦夫先生が「飛行機のスタイリング」という著書で、「人の心を鼓舞する形。」ということを書かれています。500系はまさにそうだと思います。「乗車口が他の列車と揃わないって、それがどうしたの。」別格の列車を作っってしまった人達って、尊敬します。
by N (2010-01-21 00:51)
Nさん、おはようございます。
昨日某公共放送の「ためしてガッテン」という番組で性差による思考の違いを見ましたが、やはり男性は鉄道に関しての興味がダントツでメカニズムなんだそうです。私もオトコですし、「鉄」ですから蒸気機関車のシリンダや動輪とロッドの動きなどのメカニズムが露出している姿には萌えます。ただ、500系のような先端技術を覆い隠してしまう姿には、メカニズムを黒子として扱うのが私は良しと思っています。デザインの世界は、とかくスタイリングと理解されがちですが、実は企画段階から関わることで、技術的な諸条件をクリアしながら人にとって最も良いとされる空間と造形などをバランス良く構築させることだと思っています。
私がここでタラタラ書くより、是非本誌を手に取ってご一読ください。
by Akira (2010-01-21 08:24)