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Lostkreuz.de [欧州鉄道]

まだ、メッセからの戦利品の紹介は残っているのだが、今回はちょっと一休みということで、あるドイツのPhotoblog「Lostkreuz」を紹介したい。拙ブログの「読んでいるブログ」に先日登録した「ベルリン中央駅」で紹介されていたブログである。

http://lostkreuz.de/

これは、ただひたすら旧東ベルリンのOSTKREUZ駅だけを追い続けている写真ブログである。OSTKREUZ駅は、その名の通りベルリンのS-Bahnの環状線と東へ向かう路線の交差する駅でもある。
将来的にはベルリン中央駅のようなガラス張りのモダンな駅舎になるので鋭意工事中であるようだが、今のところは東独時代、いやそれ以前からの面影が色濃く残る光景がこのブログの画像から見える。タイトルの「Lost Kreuz」はお気づきだとは思うが、英語のLost(失う)とOstkreuzの2つの意味を重ねたものと思う。この工事の完成によってOstkreuzの過去が失ってしまうことを想いながらブログの主はシャッターを切っているのでろう。

私自身はこの駅へは行った事がないが、このブログの画像からは旧東独時代の1988年に語学学校のルームメイトと2人でベルリン経由でドレスデンへと鉄道旅行したときの思い出が蘇ってきたのである。ベルリンという大都市は、統一後の今では当時とは大きく変わってしまったのであろうが、他のドイツの街とは一線を画した雰囲気であった。それは大都会故にそうなのか、長らく続いた東独に囲まれた離島のような政治的側面があったためかはわからないが、少なくとも西ベルリンでは私はそう感じたのである。なんとも言えない不安もあったように思う。

若かった私とルームメイトは無謀にも西からS-Bahnに乗って国境駅であるFriedrichstrasseで降り、厳しい持ち物検査を受けつつ東に入ったのである。Friedrichstrasse駅で乗換えたホームから既に目の前にある光景は、西と比べて数十年タイムスリップしたかのようであった。
それは、当時ブランデンブルグ門前にあった壁側の西側の展望台から見える東側の様子とは全くと言って良いほど異なる印象であった。何もかもが古く、それも時に工芸品のような美しいディテールでありながらも、その輝きを失わせるほどの暗さがそこにはあったのである。Friedrichstrasseから乗ったS-Bahn車両も戦前のままの姿に見えた(実際は多少なりともリニューアルされているのであろうが..)し、その車窓から見えた光景も今迄見た事のない光景であった。ここに文章で表現するのは難しいが、まさに全てが無彩色に近いくすんだ光景で、すべてが戦前の写真を見ているようであった。その時、私は東独ではむやみに写真を撮るべきではないとの意識が働いてほとんどシャッターを切らなかったように思う。今考えれば惜しいと思う他ない。

当時日本では、世紀末だとかレトロブームだとか、そんな昔の良い部分だけを取り上げてもてはやされていたような気がする。しかし、そこには今よりもっと多くの負の部分があって、その上にあるささやかな美しいディテールがより引き立たせられるのである。ましてやレトロ風なんてキッチュなものがもてはやされていること自体が違和感である。

このブログはその雰囲気を質の高い写真で見事に表現しているのである。

この時の写真は本当に僅かしか残っていないが、整理もしていないのですぐにお見せする事も出来ないのが残念である。今と全く異なる20年前の東独の首都の生活は、日本で言えばおそらく戦前の生活と同じような感じだったに違いなかろう。
写真はほとんど撮影出来なかったが、私が1泊2日の東独旅行での体験は、写真がない分自分の脳裏には強い印象として刻まれており、それは画像だけでは味わえないものであり、その場に立ち、空気を吸ったということそのものが今にして思えば非常に貴重だったと思うのである。
今は当時の思い出としてそう言えるのだが、ベルリンやドレスデンとはいえ、当時は何しろ共産圏の東独である。薄汚れたグレーの街に漂う石炭の匂いが鼻につき、できればそこから一刻も早く逃げ出したかったという気持ちもあったのは確か。その時の自身の感情は、非常に落ち着かない不安と興味の狭間で揺れ動いていたのかも知れない。

さて、ルームメイトとの旅行では、ガイドに書かれてあった国営旅行社にS-Bahnで行き、そこで旅行ビザを発行してもらってドレスデンへと向かったのである。ドレスデン行きはBerlin-Ost駅からの出発で侘しいD-Zug列車であったが、途中Leipzigを経由してDresden Hbfへと向かい、翌日はDresden Neustadt駅からInterzonenzug(西ドイツ直行列車)で帰った。Dresdenで何をしたのか...。ほとんど憶えていないが、この行程自体が私達にとって冒険だったので、国境を越えて西側に入り、乗務員が交代してDB車掌の明るい声を聞いた時にようやくほっとしたのを憶えているだけである。
タグ:Dr DB Ep.V S-Bahn
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コメント 6

N

おかげさまで、久々に疲れるほどのよい写真を見せていただきました。ひとつの駅だけでこれだけの写真が撮れる眼もすごいですが、その熱意に答えている駅の奥深さも相当なものです。日本の都会の駅はコンクリートと鋼材で行き当たりばったりに増殖していったようにしか見えませんが、欧州の古い駅の主役は鉄と石だと思います。デザインの問題ではなく、時間と空気が作り出している雰囲気ですから、結果だけをまねしたって安っぽいテーマパークにしかならないんでしょうね。模型で再現出来たら素晴らしいとは思っています。模型はまねではなくて、感動したものの立体表現なので。
by N (2010-02-26 18:57) 

KDB

今晩は。KDBです。
オストクロイツ駅の写真、いいですね。この駅、通過したことはありますが、今でも大して変って無いですね。私も1977年にフリードリヒシュトラーセ駅の検問所から東に入りましたが、駅のホームは乗客よりも警備の兵隊の方が多かった記憶があります。Sバーンの電車はそれこそ博物館の動態保存車みたいでしたね。それに乗ってテレビ塔のあるアレクサンダー広場駅まで行くと、少しは明るい雰囲気でしたが、デパートに入って模型売り場に行ったら、僅かばかりのPIKOのHOと、TTゲージの製品があるだけ。その日のうちに、この国では何をするにも、まずは行列に並ばねばならない事をさんざん思い知らされたうえ、記念に駅で時刻表を購入しようとしたら、資本主義国の旅行者には売ってもらえませんでした。走っている車はご存じのトラバント。まあ、過当競争も良くありませんが、競争の無い社会がどのような工業製品を生み出すか?よくわかった数日間でした。
by KDB (2010-02-26 20:32) 

Akira

こんばんは、Nさん。

確かにこの写真群は、テーマを1つ決めて撮影するにはあまりに小さなモチーフかも知れませんが、それでも刻一刻と変化する工事の進捗と季節や時間、天候などなど様々な表情を見せてくれます。その表情の変化を見逃さずに画面に納めているのが良くわかります。
まず、これをモチーフのテーマにした作者には、この駅に対する愛情が伺えますし、それだけの駅であることが良く理解できます。おそらく戦前はドイツの首都の環状線の結節点としてそこそこ賑わっていた駅なのでしょう。戦後、東独時代には賑わいだけがなくなり時が止まったままの駅ということがわかります。そして新しく生まれ変わろうとしてる。非常に切ない光景ですが、これも激動の時代の流れの中で生まれた1つの結果であると思います。

さて模型化ですが、できれば面白そうですね。Google mapを見れば航空写真で俯瞰レイアウトもわかりますし、このブログの写真から細かなディテール迄表現できるかも知れません。
by Akira (2010-02-26 20:42) 

Akira

こんにちは、KDBさん。

KDBさんも同じ道を辿ったのですね。私より11年も前に..。書き込みを読んで、だんだんと当時の体験が蘇ってきました。Friedrichstrasseの検問所はかなり執拗な荷物検査で恐怖でした。
ホームのチケットキャンセラーが手動で、切符を機械に差し込んで、その上にあるボタン状のものを叩いて印刷させるのに驚いたりしました。そこから乗ったS-Bahn車両は木造(天井が縦に木材の継ぎ目が見えている状態で、電灯が白熱灯だったのを憶えています。扉が閉まる前に赤いランプが点滅してブザーが鳴って...。ただ両開き扉なのに手動だったことも。

私が下車したのは、やはりアレクサンダープラッツで、あのテレビ塔の側の建物に国営旅行社の事務所がありました。
トラビとヴァルトブルグしかない道路には、とてもすぐ側に西ベルリンの華やかな世界が広がっているようには思えず、とにかくいつでも誰かに監視されているのではないかと感じる怖さは、言葉では言い表せませんね。
by Akira (2010-02-26 21:04) 

マサト

はじめまして、拙ブログをご紹介いただき、ありがとうございました。もう読んでくださったかもしれませんが、オストクロイツ駅の最近の様子をブログにアップしました。http://berlinhbf.exblog.jp/12230985/
分断時代フリードリヒシュトラーセ駅を越えて、東に行かれた経験をお持ちなのですね。今となっては本当にうらやましいです。「分断時代のフリードリヒシュトラーセ駅」については、昨年「コヨーテ」という雑誌の11月号に書かせていただいたので、そちらもお読みいただけると幸いです。
by マサト (2010-03-03 06:48) 

Akira

マサトさん、Spielkisteへようこそ。

こちらこそ、「ベルリン中央駅」ブログを勝手に「読んでいるブログ」としてリンクしてしまい失礼しました。ベルリンに滞在されているということで現地の移り行くさまをブログを通して発信されているのはとても貴重なことで、ベルリン訪問がドイツ統一の2日後に訪れたことが最後となった私には大変参考になっています。
その時は、自動車でベルリンからバウハウス校舎を見学にデッサウに向かいました。まだまだ東の香りが残る旧東独地域は今は昔の話です。
雑誌「コヨーテ」は是非手にしてみたいです。
by Akira (2010-03-03 07:55) 

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