晩秋のドイツ旅行(3) [Reise]
実は、息子はザールブリュッケン大学にある外国人向けのドイツ語学校に、この5月から通っている。彼はドイツで生まれ4歳迄過ごしているが、帰国後はドイツ語をすっかり忘れてしまい、半年程ここでドイツ語を勉強している。
一緒に駅正面口迄行くと、ザールブリュッケン独日協会のK会長と、今夏まで日本で勉強をしていた友人のC君が迎えに出てくれた。とても急なスケジュールにも関わらず、彼らは私のために時間を作って来てくれたのだ。感謝の極みである。そのまま別々にクルマでC君のご両親がいらっしゃる自宅に招かれ、ちょっと遅い朝食をご馳走になった。彼の家は想像以上に立派なお宅で広々としている。
更に、ここから息子がお世話になっているHさんがみえて、本当に恐縮してしまった。ここで私がザールブリュッケンですべきことを説明し、これを到着初日で全てこなすこととなった。
▲ Saarbahnトラムの車内。ここのトラムにはチケットキャンセラーがない。切符購入時に時刻が既に記載されているそうである。
▲ トラム車内の駅案内図。青いマークの電停はバスなどとの接続を表す。
私のここでの目的は幾つかあったのであるが、その大きな1つが世界でも稀な国境を越えるトラム(Saarbahn)に乗車し撮影することである。ここのトラムはカールスルーエのトラムを参考に1997年に開業した2電源式のトラムトレインである。つまり、市内は路面電車として750V直流で走行し、途中DB路線に接続。DB路線内は15KV 16,7Hzの交流で走る。更にフランスとの国境を越え1駅だけであるが、SNCF路線に入線するのである。
今や、その成功で世界的に有名になったストラスブールのトラムも、当初の計画ではライン河を渡りドイツ迄延伸する計画があったと聞いているが、その実現はまだである。それに対して、あまりに地味な存在であるSaarbahnは、既にフランスとトラムで接続されている。そのあたりの事情も知りたかった1つである。
C君のお母様は顔が広いようで、早速私のためにSaarbahnに電話して私に説明をしてくれる技術者を見つけてくれた。彼はたまたま時間があったようで、その幸運と連絡をつけてくれた彼女に感謝である。早速、会社/車庫のあるBrebach駅に行くと、既に駅前で彼は待っていてくれた。
▲ トラムはBombardier社製 "Flexity Link"。
▲ ホームの列車案内表示。
Brebach駅はDB駅であるのだが、同時にトラムのDB路線乗り入れ電停も兼ねている。ここからHanweiler駅迄はDB路線を走る。Hamweiler駅はドイツ側国境駅で、国境からはSNCFとなる。Sarreguemines駅はフランス側の国境駅でトラムはここまで入る。SNCFは非電化のため、架線はSarreguemines駅まであり、電圧もDBと同じになっている。一方信号設備は、国境を境にSNCFの方式に変わるのであるが、これもトラムが来ているため、Sarreguemines駅迄はDBの地上子が併設されており、LZBもSarreguemines駅迄有効となっている。
▲ Saareguemines駅に到着したトラム
▲ Sarreguemines駅のSNCF列車ホーム。遠くにSNCFの気動車が見える。
▲ Sarreguemines駅にはDBとは異なり、黒色ベースの時計。
これらの話を実際にトラムに乗って前方窓を通して地上子や信号設備を確認しながらレクチャーされると理解が深まる。
Sarreguemines駅に到着すると、そこはまさにフランスである。駅舎建物にしても同じ石造りながら、どことなくフランス的なものを感じる。もちろん案内表示や時計などはSNCFのCIに準拠したもので、全てフランス語表記である。
▲ トラムの運転台。
▲ ワンマン運転のため、後方確認はカメラを通して行う。
再び同じトラムに乗車してBrebach駅方向に戻る。今度は、DB路線から路面に変わる部分を乗車しながら観察する。Brebach駅を過ぎると線路は左に分岐し、下り坂となるが、ここが2つの電圧が変わるデッドセクションになっている。電圧切換は全て自動制御され、この区間の手前は時速40Km/hで走行すると規定されているとのことである。万が一停電などでデッドセクション部分で車両が停止してしまった場合について尋ねると、セクションの勾配を利用して自然走行してセクションを抜けられるのだそうである。
また、DB/SNCFのホームと路面電停のホームは規格の違いからドアとホームに隙間が出来る場合があるのであるが、それは車体ドア下から自動的にステップが出ていずれの場合でもベビーカーや車椅子利用にもステップレスで対応しているとのことである。
私達は実際に路面線の最初の電停であるRömerkastell迄行き、電圧切換えを確認した上で再びBrebach駅に戻ってフィールドワークを終えたのである。
Saarbrückenのような中規模な都市ではトラムは不可欠な公共交通であると言えるが、フランスと国境を接しているというより、まるで日本の県境程度の感覚でトラムを使って行き来できるのは、まさに両国民の利用者の立場を最優先に考えた取り組みであると感じた次第である。カールスルーエやストラスブールのようには脚光を浴びることがないのは、この地がかつての(石炭採掘と鉄鋼で栄えた)ような産業の栄華がないからかも知れないし、経営も決して楽ではないとのことであるが、この街では、あちこちからフランス語が聞こえてくるのは、このトラムがあるからこそなのだと思うのである。
Brebach駅で、Saarbahnの担当者に別れを告げ、その後大学で用事を済ませて再びザールブリュッケン中央駅迄送ってもらい、C君と彼の母と別れ息子のホストファミリーの待つReimsbachへ着いた時は、既に午後8時を廻っていたと思う。何しろ、前日の朝からほとんど眠らず+8時間の時差分があるので、私自身はほとんどフラフラの状態。夕食をご馳走になったが用意された半分ぐらいしか食べられず、ベッドに入ったとほぼ同時に気を失ったのは、だれもが想像出来ると思う。
続く
参考サイト:Saarbahn
http://www.saarbahn.de/de/start
[EDIT] 2012-11-11
一緒に駅正面口迄行くと、ザールブリュッケン独日協会のK会長と、今夏まで日本で勉強をしていた友人のC君が迎えに出てくれた。とても急なスケジュールにも関わらず、彼らは私のために時間を作って来てくれたのだ。感謝の極みである。そのまま別々にクルマでC君のご両親がいらっしゃる自宅に招かれ、ちょっと遅い朝食をご馳走になった。彼の家は想像以上に立派なお宅で広々としている。
更に、ここから息子がお世話になっているHさんがみえて、本当に恐縮してしまった。ここで私がザールブリュッケンですべきことを説明し、これを到着初日で全てこなすこととなった。
▲ Saarbahnトラムの車内。ここのトラムにはチケットキャンセラーがない。切符購入時に時刻が既に記載されているそうである。
▲ トラム車内の駅案内図。青いマークの電停はバスなどとの接続を表す。
私のここでの目的は幾つかあったのであるが、その大きな1つが世界でも稀な国境を越えるトラム(Saarbahn)に乗車し撮影することである。ここのトラムはカールスルーエのトラムを参考に1997年に開業した2電源式のトラムトレインである。つまり、市内は路面電車として750V直流で走行し、途中DB路線に接続。DB路線内は15KV 16,7Hzの交流で走る。更にフランスとの国境を越え1駅だけであるが、SNCF路線に入線するのである。
今や、その成功で世界的に有名になったストラスブールのトラムも、当初の計画ではライン河を渡りドイツ迄延伸する計画があったと聞いているが、その実現はまだである。それに対して、あまりに地味な存在であるSaarbahnは、既にフランスとトラムで接続されている。そのあたりの事情も知りたかった1つである。
C君のお母様は顔が広いようで、早速私のためにSaarbahnに電話して私に説明をしてくれる技術者を見つけてくれた。彼はたまたま時間があったようで、その幸運と連絡をつけてくれた彼女に感謝である。早速、会社/車庫のあるBrebach駅に行くと、既に駅前で彼は待っていてくれた。
▲ トラムはBombardier社製 "Flexity Link"。
▲ ホームの列車案内表示。
Brebach駅はDB駅であるのだが、同時にトラムのDB路線乗り入れ電停も兼ねている。ここからHanweiler駅迄はDB路線を走る。Hamweiler駅はドイツ側国境駅で、国境からはSNCFとなる。Sarreguemines駅はフランス側の国境駅でトラムはここまで入る。SNCFは非電化のため、架線はSarreguemines駅まであり、電圧もDBと同じになっている。一方信号設備は、国境を境にSNCFの方式に変わるのであるが、これもトラムが来ているため、Sarreguemines駅迄はDBの地上子が併設されており、LZBもSarreguemines駅迄有効となっている。
▲ Saareguemines駅に到着したトラム
▲ Sarreguemines駅のSNCF列車ホーム。遠くにSNCFの気動車が見える。
▲ Sarreguemines駅にはDBとは異なり、黒色ベースの時計。
これらの話を実際にトラムに乗って前方窓を通して地上子や信号設備を確認しながらレクチャーされると理解が深まる。
Sarreguemines駅に到着すると、そこはまさにフランスである。駅舎建物にしても同じ石造りながら、どことなくフランス的なものを感じる。もちろん案内表示や時計などはSNCFのCIに準拠したもので、全てフランス語表記である。
▲ トラムの運転台。
▲ ワンマン運転のため、後方確認はカメラを通して行う。
再び同じトラムに乗車してBrebach駅方向に戻る。今度は、DB路線から路面に変わる部分を乗車しながら観察する。Brebach駅を過ぎると線路は左に分岐し、下り坂となるが、ここが2つの電圧が変わるデッドセクションになっている。電圧切換は全て自動制御され、この区間の手前は時速40Km/hで走行すると規定されているとのことである。万が一停電などでデッドセクション部分で車両が停止してしまった場合について尋ねると、セクションの勾配を利用して自然走行してセクションを抜けられるのだそうである。
また、DB/SNCFのホームと路面電停のホームは規格の違いからドアとホームに隙間が出来る場合があるのであるが、それは車体ドア下から自動的にステップが出ていずれの場合でもベビーカーや車椅子利用にもステップレスで対応しているとのことである。
私達は実際に路面線の最初の電停であるRömerkastell迄行き、電圧切換えを確認した上で再びBrebach駅に戻ってフィールドワークを終えたのである。
Saarbrückenのような中規模な都市ではトラムは不可欠な公共交通であると言えるが、フランスと国境を接しているというより、まるで日本の県境程度の感覚でトラムを使って行き来できるのは、まさに両国民の利用者の立場を最優先に考えた取り組みであると感じた次第である。カールスルーエやストラスブールのようには脚光を浴びることがないのは、この地がかつての(石炭採掘と鉄鋼で栄えた)ような産業の栄華がないからかも知れないし、経営も決して楽ではないとのことであるが、この街では、あちこちからフランス語が聞こえてくるのは、このトラムがあるからこそなのだと思うのである。
Brebach駅で、Saarbahnの担当者に別れを告げ、その後大学で用事を済ませて再びザールブリュッケン中央駅迄送ってもらい、C君と彼の母と別れ息子のホストファミリーの待つReimsbachへ着いた時は、既に午後8時を廻っていたと思う。何しろ、前日の朝からほとんど眠らず+8時間の時差分があるので、私自身はほとんどフラフラの状態。夕食をご馳走になったが用意された半分ぐらいしか食べられず、ベッドに入ったとほぼ同時に気を失ったのは、だれもが想像出来ると思う。
続く
参考サイト:Saarbahn
http://www.saarbahn.de/de/start
[EDIT] 2012-11-11
Akiraさん、おはようございます。
>おそらく世界唯一であろう国境を越えるトラムに乗車し
国境を越えるトラムについては、少なくとも私の知る範囲では、緑のバーゼル市電(BVB)に乗り入れている黄色のBLT10系統が、たった一駅ですが路線の途中でフランスに越境しています。また、BVB自体も、8系統をドイツ国内まで延伸するプロジェクトが進捗中です。まあ、バーゼル付近は、そもそも国境が入り組んで空港も瑞仏独共用のような扱いですが。ご参考まで。
by seidoh (2012-11-11 10:29)
seidohさん、おはようございます。
情報ありがとうございます。スイスのバーゼルもフランスに越境していたのですね。本文修正しておきます。バーゼルは確か山や川ではなく道路が国境だったりしていたような記憶があるのですが、どうなのでしょう?スイスはEUではないので、例えばドイツとのアウトバーン国境では検査などされる施設もあったと記憶していますが、街中ではどうなっているのでしょう。トラムで越境したときのパスポートコントロールなどについても興味があります。
by Akira (2012-11-11 10:38)
確かにスイスはEU国ではありませんが、数年前シェンゲン協定に加盟したので、今や国境でのパスポートコントロールは一切ありません。一昔くらい前の紀行文などを読むと、バーゼルSBBやバーディッシャーの構内でチェックが行われていたようですが・・・。ただ、BLTのフランス内途中駅(停留所)では、シェンゲン協定以前からノーチェックだったようです。
そういえば、インスブルックとザルツブルクを結ぶオーストリア国鉄列車が、途中ドイツ国内を通過する間ドアをロックしていた、というのも、すっかり昔話になってしまいましたね。
by seidoh (2012-11-11 11:29)
こんにちは、seidohさん。
興味があったので、Google mapを使ってバーゼルの地図を見てみました。サテライト画像で確認してみると、国境線は道路を走っていたり駐車場を横切っていたり...と、何だかどこが国境線なんだか分からない部分もあった一方で、明らかに国境事務所とみられる場所も見受けられました。例えばスイスとドイツではワインの税率が違うので国境で検査を受けるスイスのクルマがあることを聞いたことがあります。
既にEU内では主要道の国境事務所も撤去されたり小さな事務所だけ残るのみというところがほとんどでしょうが、それでも国によって賞品の税率が違ったりするので、国境近くの市民は安い方へ流れるようです。それに対して特に何か対策をしているというも聞いたことがないです。
結局ユルいのでしょうね。
by Akira (2012-11-11 14:23)
国際Tramは、Frankfurt an der Oderにも計画があると、かなり前に聞いたのですが、まだ実現してないみたいです。
ドイツ/ポーランドの越境は、通貨も違いますし、タバコマフィアの活躍でまだやかましいのかな。
ここでの国際Tram実現は、それらが解決したあとになるのでしょう。
by Berliner (2012-11-11 18:10)
こんにちは、Berlinerさん。
やはり、いくら大陸で国境を接している国同士でも、様々な違いがある以上、それを乗り越えられるのは中々難しいようですね。ドイツとポーランドでは、通貨の違いがあるのが大きな壁の1つなのかも知れませんね。(もっともスイスとフランスでも通貨は異なりますが..)
私が昔住んでいたWeidenはチェコ国境までクルマで20分ぐらいでしたが、国境通過のためにビザを取得せねばならず1回あたり当時4千円以上掛かったと記憶しています。なので結局1回しか越境したことがありません。
by Akira (2012-11-11 22:19)
Akiraさん、どうもです。
スイス、ポーランド、チェコもシェンゲン協定のおかげで国境を越えるのは簡単になったけど、越境した公的な証拠(パスポートの入出国のスタンプ)も残らなくなったのは旅をする身としてはちょっと寂しいですよね。
ところで、私が通貨の違い以上に国境を感じるのは、携帯キャリアのカバレージだったりします。旅をするときにはiPhoneでgoogle mapを使ったり、DBのアプリで列車検索したり、行き当たりばったりのことが多いのですが、越境しないでも国境近辺では所望のキャリアを掴まないで難儀をすることがあります。しかもその結果、回線使用料が一気に増えたりもしますので、初めて訪れる国では、まずプリペイドのSIMを買おうと決めた次第です。
Saarbahnで毎日のように越境している人はその辺をどう対処しているのか興味があります。
by hikari (2012-11-12 03:14)
こんにちは、hikariさん。
私は今回の旅行はドイツだけだったので、iPhoneで定額プランを使いました。安くはないですが、定額プランでないととんでもないことになりそうです。息子は現地のお世話になっている人からスマホを借りて使っていましたが、フランスやルクセンブルクに近づくとキャリアが変わるので注意していたそうです。
国境沿いでは両方がカバーしているでしょうが、両国を毎日越境している人は2個持ちなのか、その度に現地のSIMカードを入れ替えているのか...どうなんでしょう?
by Akira (2012-11-12 09:07)