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BAUSPIEL : EIN SCHIFF / naef [デザイン]

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これは積み木である。ただ、玩具店で売られているものではなく、おそらく世界で最初に製品化された色付き積み木ではないだろうか。1924年、Alma Siedhoff-Buscherによって、ドイツの国立建築工芸学校BAUHAUSでデザインされ作られたもののレプリカである。私が1988年にベルリンのBAUHAUS-Archivで購入したものだと記憶している。
タイトルにEIN SCHIFF(船舶)と記されているように、この積み木で船をイメージした形状のものが出来るが、船以外も門やワニなどの絵も記されている。

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この積み木は、スイスの木製玩具メーカーのnaef社でレプリカを製造したものであるが、素材、精度、塗装全てが私がそれまで手にしてきた積み木の領域を超えていると感じた。それゆえ、積み木としてというより、インテリアの一部として使う方が向いているのではないかというのが、私がこの積み木を見た第一印象である。

箱は横長で小さいもの。この小さな段ボールの箱にパーツが収まっているが、その形状は立方体を始め、直方体、シリンダー形状、棒状、円弧の凸部凹部一部を切り取った形状と多彩である。この形状の豊富さは、大量生産のプロダクトを前提とした考察と玩具としての構成の多彩さを試行しているようにも見える。積み木という玩具は、その中でも極めてプリミティヴな1つであり、BAU(建築)をこの学校の教育の極みとした中での、出来上がる形状の自由さや組み合わせによる色彩の美しさを確認する手段ともなるのは、ある意味理に叶ったことなのであろう。

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箱に描かれている船を、実際に再現したみたが、箱の部品には同じ色が足らず、別の色となった。なのでこれがオリジナルと全く同じなのかと言えば、確認できるわけではない(オリジナルはベルリンの博物館にあるかも知れない)が、他の色でも充分に美しい船のイメージが構成できる。また、これは全ての部品を使う訳ではないので、残りを使って情景のイメージを作ったりと使う人の創造力を引き立てる。

バウハウスは、現代の私達の生活全般に大きく影響しているが、この小さな積み木一つにしても、その理念は揺るぎのないものであり、手に取ったこの積み木から語りかけてくる様々なことがらは、今でも通じるものである。創造力が豊かな子供達に、積み木という道具を使って自由に表現することを可能にしたこと自体がこのプロダクトの大きな試みであり、それは現在迄積み木やブロックという形で残っていることからも、ほんの13年という短い期間の学校であったにも関わらず、今なおその理念が生き続けている一つの小さな証が、このBAUSPIELなのだと思うのである。

参考サイト:
Bauspiel / Bauhaus-Archiv
http://www.bauhaus-shop.de/de/bauhaus/spiele/bauhaus-bauspiel.html

Bauhaus Bauspiel / naef AG
http://www.naefspiele.ch/index.php?id=54&L=1%2F%2Fimages%2Fph.php%3Fph%3D

Alma_Siedhoff-Buscher / Wikipedia ドイツ
http://de.wikipedia.org/wiki/Alma_Siedhoff-Buscher
タグ:Bauhaus naef

鉄道デザインEX 05 [デザイン]

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上画像は、今日届いた「鉄道デザインEX」の最新号である。半年に1度発刊する雑誌なので、まだまだ認知されている雑誌とは言い難いが、5号を数える迄に至った中で、鉄道をデザインという切り口で車両に留まらず、駅舎やサイン、レールに至る迄、多彩な著作人の様々な角度から執筆編集されている、これまでの鉄道趣味誌とは全く異なる誌面づくりの雑誌として確立しつつあるように思う。
前号の駅舎特集も興味深い記事が多かったが、今号は「流線形」が特集である。流線形と言えば、もちろん新幹線が頭に浮かぶが、新幹線のあの形状の開発経緯はもちろん、新幹線以前の内外の流線形車両の変遷や文化的側面からの考察など、6つの角度(切り口)から構成される記事はそれぞれに興味深いもの。もちろんドイツのSVTもその中に登場する。個人的には、ドイツのレールツェッペリンやHWZ、05形、19形、VT11.5あたりの記述も欲しかったが、それを加えると、ドイツ以外の車両達も更に増えることになろうから、それらは先の楽しみと考えておきたい。

現在鋭意復原工事中の東京駅は、10月にオリジナルの姿で完成予定であるが、この誌面では多くのページを割いて、幾つかの切り口で復原の姿を豊富な画像と共に解説が行われている。オリジナルの美しい東京駅の復原を楽しみにしている1人として、完成前に記事を一読するとより深い理解と新しい発見が出来ると思う。

その他、東京メトロの1000系電車や駅で再利用されている古レールの記事など、今号も同誌ならではの編集が貫かれている。相変わらず拙記事も恥ずかしながら誌面の隅を汚している。

全国の書店には、明日(8/31)から並ぶとのこと。



タグ:Zeitschriften
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Sergio PininfarinaとF. A. PORSCHE [デザイン]

昨晩のニュースでイタリアのデザイン界の巨匠ピニンファリーナ氏が亡くなったことを知った。私の世代である40代後半から50代に掛けては、フェラーリを初めとしたスーパーカーブームがあったので興味はなくともその名前を知る人は少なくないだろう。鉄道の世界では、SBBのRe 460のエクステリアデザインを手掛け、FSの新幹線ETR 500のプロトタイプデザインも製造会社であるBREDA社と共にデザインのプロポーザルを行った。カーデザインの世界では、最高峰と言っても良い方である。

http://www.pininfarina.it/

4月5日には、ポルシェ博士の直系の孫であり、ポルシェ911のデザイナー、そしてオーストリアのPORSCHE DESIGNを率いて来たF. A. PORSCHE氏も亡くなっている。

http://www.auto-motor-und-sport.de/news/ferdinand-alexander-porsche-gestorben-der-vater-des-porsche-911-ist-tot-4633628.html

1950年代から世界の工業デザインの 先頭を走って来た彼らは、既に第一線から遠のいても良いはずであるが、彼らの名前はトランスポーテーションデザインの世界では無くてはならないもの。ポルシェデザインは、数々の機器デザインの他、ウィーンのULFと呼ばれるLRTのデザインやシンガポールの空港鉄道車両、その他地下鉄などのデザインを手がけている。一方、ピニンファリーナは、フェラーリはもちろん、プジョーのカブリオレやクーペ、アルファロメオなど、デザインを提供している自動車メーカーは数多い。それ故、2人が他界したことで輝ける星が消えてしまったことに空虚さを感じるのは、私も同じである。

とは書いたものの、ここに挙げた両社は会社組織としてこれからも末永く続く名前であることに変わりはないであろう。願わくば、会社として引き継いだ2社のデザインスピリットも変わりなく、新しいモデルが登場する度に、その美しさに感動しワクワクする気持ちになれることが、この2社の作品を通して今後も続くことを願うのみである。偉大な二人に哀悼の意を表したい。

参考サイト:PORSCHE DESIGN
http://www.porsche-design.com/international/jp/
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〜お知らせ 「フィンランドのくらしとデザイン展」 [デザイン]

興味深い展覧会のお知らせをしたい。北欧のフィンランドという国をご存知であると思うが、私達日本からはムーミンの国という方が馴染みがあるかも知れない。テレビアニメや挿絵で描かれたムーミンの棲む世界は、幻想的なイメージを一層掻立てていた。しかし、私にとってそれ以上のフィンランドのイメージはと言えば、ラップランドのサンタクロース、オーロラ、サウナなど、最近すこしづつ観光地としての情報が定着しつつある現実の姿。また、有名なmarimekkoの花柄に代表されるライフスタイルとしての特徴的なテキスタイルの紹介もされるようになってきている...というところであろうか。

鉄道に関して言えば、スイスのRe460ベースの電気機関車Sr2形やイタリアのペンドリーノベースの電車Sm3形がフィンランド国鉄(VR)で活躍し始めた頃から私も興味を持ち始めたのであるが、それ以外となると全くに近いほどその実情を知らない。それはメルクリンからVRの車両モデルがリリースされていないということもあろう。

デザインや建築の世界ではAaltoが有名で、その特徴的な造形は私を含め世界中に多くのファンが居ることも忘れてはならない。
そんな、部分的にしか知りえなかった極めて輝かしい光を放つフィンランドの世界(特にその暮らしとそれを彩るデザイン)を様々な切り口で紹介する催しが東京渋谷のBunkamura Gallerieで今月20日から行われる。以下ウエブサイト参照。

http://www.finland-design.com/tokyo

フィンランドの人々の暮らしは、おそらく緯度の高さから他の北欧諸国同様、家の中の生活時間の長さに合わせた充実した暮らしを実現できる様々な工夫やアイデアに満ち溢れているものと想像できる。その目的は、数字や金銭的豊かさとは一線を画したもの。つまり私達日本人が今迄追い求めて来た豊かさとは別次元のものであるに違いない。それをこの展覧会で見つけることができるなら、そして学ぶことができるならば充分にその価値はあると思うのである。
今、日本や私達個人一人一人に突きつけられている様々な課題が、もしかしたらこの展覧会で案外あっさりと見えてきて、あわよくばその転換のきっかけとなるのであれば、まさにタイムリーな催しである。

さて、この展覧会の企画に当初から携わってきた宇都宮美術館学芸員の橋本さんによる3/28に行われる「今日はフィンランド公共交通Day」でのトークショーは、フィンランドの公共交通とそこにおけるデザインの役割を理解する上では、またとない機会であろう。
タグ:VR

湘南LRT研究会展示 [デザイン]

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先の金曜日、小雨模様の中、東京信濃町駅近くにあるギャラリーで行われているLRT研究の展示会場に出掛けた。JR信濃町から少し閑静な住宅地に入ったところにあるそのギャラリーは、初めて訪れた場所である。

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住宅や小さなオフィスビルばかりの場所に西洋風のファサードを持つ建物は、1階にカフェ、2階以上と地階にはギャラリーがある。その2階の一室で湘南LRT研究会による展示が催されていた。

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上画像は、その展示の一部であるが、多摩美術大学で長く教鞭を執られていた知人の先生が退官するにあたって、その研究を発表展示する場であり、私を含めて先生の教え子数名の鉄道や路面電車に関する作品が先生の研究に華を添えるという形で私自身の絵も教え子のLRT課題作品2点と共に展示させて頂いた。

先生の研究は、自然エネルギーを活用した路面電車であり、既にJAM(国際鉄道模型コンベンション)でも発表されており、ご存知の方もいらっしゃるかも知れないが、太陽光エネルギーで実際に人を乗せて走るモデルもあり、今後の研究の成果が楽しみである。

残念ながら展示は今日迄であるが、このギャラリーは小さいながら質の高さを感じる場所でもある。テラスもある素敵な空間を持つ1階のカフェでいただいたエスプレッソとケーキも美味しかったことを付け加えておきたい。

参考サイト:The Artcomplex Center of Tokyo
http://www.gallerycomplex.com/

阪堺電車の新型電車カラーリング投票 [デザイン]

今年開業100周年を迎えた大阪天王寺と堺を結ぶ路面電車路線の阪堺電車に新型車両が導入されるが、そのカラーリングの投票が阪堺電車のウエブサイトで案内されている。

http://www.city.sakai.lg.jp/city/info/_tetuki/hansakai_design_tohyo.html

阪堺電車は、東京都電と運用形態が似ているところもあって相互協力もあるようであるが、未だ単車の世界から抜けられない都電に対して低床連接車の導入と一歩先に出た進化を成し遂げるようである。
で、今回のカラーリングの4提案であるが、個人的に「悪くはない」と思う。しかしながらそれ以上にはなっていない..とも思う。残念ながら個性が乏しいと思うからだ。一目見て「阪堺電車だ!」と思えるようなアイデンティティがあれば、新型電車を通して阪堺電車の存在をより広く伝えることが出来るはずであるからである。

私はその中でも最も阪堺電車らしいと思えるデザインに投票してみた。いずれにしてもLRTに一歩近づいた(かもしれない)阪堺電車には、これからも沿線の市民に愛されるようエールを送りたい。

参考サイト:阪堺電車
http://www.hankai.co.jp/
タグ:LRT
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鉄道デザインEX Vol.03 [デザイン]

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先程、鉄道デザインExの最新である03号の見本誌が届いた。思えば同誌の創刊号が書店に並んだのが丁度1年前であった。「鉄道」と「デザイン」を結ぶこの新しい雑誌の試みは半年に1回であるが、着実に根付きつつあるように思う。
今号の特集は、LRTである。それも「都市デザインとしての路面電車」..という前書き付き。つまり、ヨーロッパではLRTが登場して約30年経つが、日本でも富山ライトレールで一躍LRTが脚光を浴び、ある意味日本のLRT確立にようやく目処が立ちつつある..というのが今の現状であり、その中でデザインの重要性についての切り口がこの誌面で色々な方面から述べられている,,ということであろう。

もちろん、富山市ライトレールの紹介がされているし、アルナ工機など車両メーカーからのアプローチについての記事もある。その他、JRが研究中のハイブリッドLRVなど将来的な技術についての記述など、デザインだけではなく技術的な側面からも情報を得られる特集でもある。

今回は、私もいつものゆるめの連載記事「修行奮闘記」以外に、LRTに関連して私の住んでいたカールスルーエや、フランス、オーストリアなどの実例も織り交ぜて寄稿した文章が誌面を少々汚している。
LRTに興味のある方はもちろん、車両デザインや都市計画、更には、新たな公共交通で「我が街を住み良い街にしたい」と考えている全ての人に一読をお勧め出来る最新号である。

本誌が書店に並ぶのは今月31日とのことである。

以下に、アマゾンジャパンのリンクを記す。


参考サイト:鉄道デザインEx 03 / イカロス出版
https://secure.ikaros.jp/sales/mook-detail.asp?ID=2503
タグ:Zeitschriften
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鉄道デザインEX vol.2 [デザイン]

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創刊号が出たのが昨年の8月下旬だったか。おそらく世界でも初めての試みであろう「鉄道」と「デザイン」の雑誌であるが、第2号がようやく3月2日に書店に並ぶ。当誌面の片隅を汚している自身としては、反響や売れ行きはやはり気になるもので、関係者に聞いてみると、やはり..というか一般よりも業界の方々の関心が強いようである。

今回の特集は我が国の鉄道車両メーカーの一躍を担う近畿車両のデザインが特集である。昨年初めて行われた「鉄道技術展」でも出展した近畿車両はデザインがテーマであったほど、デザインに力を入れている車両メーカーの1つであるように思う。ページを捲ると初めて見るレンダリングやスケッチもあり、興味深い。それも近鉄特急からJRや輸出向け車両、果てはLRTにいたる迄余すところなく文章と画像で表現されているのは嬉しいところ。
また昨秋ドイツのベルリンで行われたInnoTransのレポートも画像が小さいながら沢山の興味深い車両を取り上げているのが嬉しい。
その他鉄道には欠かせない駅やサイン、フォントなどなど、鉄道のデザインはトータルであるということを感じさせる編集方針には大変納得の行く部分である。

一方で、少し気になったこと...。それはデザイン誌にあるページを初めて捲るときのワクワク感がこの誌面には少々足りないのかな...と。それは何かと考えてみると、鉄道以外のデザイン誌に見られる日本以外のデザインの紹介がないことに尽きるように感じたのである。つまりは、初めて目にする(優れた)デザイン紹介がないこと..そこが残念である。

さて、日本でプロダクトデザインの専門誌と言えば、CarStyling誌が有名で、私も1度だけ誌面に作品が掲載されたことがあるが、この雑誌は純粋に業界紙で世界中の(特にトランスポーテーション関係の)デザイナーが愛読していると言っても過言ではなかったのだが、今では同誌すら休刊中である。
同誌が主に扱う自動車に興味が薄れている現状が根底にあるとは思うが、毎号世界の名だたる自動車メーカーやデザイナーの作品が散りばめられたその紙面構成など、まだまだ鉄道デザインExは見習うべき点もあるかと思う。

今号も誌面の片隅とは言えないページ数になってしまったが、留学する学生が減っているという現状に少しでも貢献したく執筆させていただいているので、ご興味のある方は本書を手に取って頂ければ幸いである。それにしても毎回的確な表現のイラストは脱帽もの..である。

[イカロス出版]
https://secure.ikaros.jp/sales/mook-detail.asp?ID=2380

[Amazon.co.jp]

タグ:Zeitschriften
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Bauhaus Taste - Bauhaus Kitchen展 [デザイン]

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昨日木曜日は八王子の大学へ出講日なのだが、東京で開催されているバウハウスキッチン展を前々から見たかったので、いつもの八高線を使わずに東京経由で展覧会に寄り道をして行くことにした。
ミュージアムは、新橋駅からほど近い汐留停車場跡地横のパナソニック電工東京本社内の4階にある。
新橋駅から直結している地下道を進み地下2階のレベルにある建物入口から入ると、ショールームになっているので、そこを通り抜けて4階の本社受付とミュージアムのあるフロアへと進む。

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ここからは、撮影禁止区域なのでミュージアムの入口すら撮影不可能である。
受付で作品説明のリストをもらい、順に作品を観て行く。このブログでも過去に東京藝大で行われたバウハウス展の紹介もしたが、今回はバウハウスの13年の歴史の中でも、デッサウにある世界遺産にもなっている2代目の校舎の時代(つまり最も輝かしかった時代)に於ける教育内容と、主に食に関係する作品が数多く展示され、初めて目にすることの出来た作品も少なからずあった。そこには、戦前である1920年代から30年代に掛けて、まだドイツでも貧富の差が激しく伝統を重んじた生活に縛られていた時代のことである。バウハウスは自由な発想で居心地の良い無駄の省いた空間を目指す様々な実験的な試みが行われた場であったのである。

展示は、当時の「Neue Linie」や「Bauhaus」と呼ばれる雑誌や機関誌(つまり今で言うエディトリアルデザイン)からタイポグラフィー(文字デザイン)、写真、染織、デッサン、そしてテーブルウエア、ランプ、大きいものではユンカース社の給湯器まで展示されている。そのどれもが、機能を追求し、可能な限りの装飾をそぎ落としたシンプルな造形であるが、そこに美が存在することには変わりない。感心したのは機関誌のレイアウトには、写真と文字組みがなされているが、その構成の美しさは今の我が国で出ている雑誌の多くのデザインはこれに劣ることが容易に理解できること。コーヒーサーバーや食器などテーブルウエアに至っては、現代でも充分に通用するデザインである。

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年


展示の中心に据えられているのは、マイスターハウスと呼ばれる教授陣の住宅のキッチンを原寸で再現したものである。これは、今でもデッサウに実在する。しかし世界遺産になっているためか使われておらず、現地でも外観が観れるだけのようであるが、ここではこの展示のためにパナソニックの担当者が現地で採寸し、キッチン部分のみをミュージアム内に製作。そしてそこに当時使われていた厨房機器や棚などを当時のままの位置に据え付けることで、見事にその空間を再現したと言う訳である。
実は、ドイツが統一した3日後に私自身かねてから行きたかった旧東独のDessauを訪ね、Bauhaus校舎の見学を果たした。しかし、このマイスターハウスに行くことは出来なかったのが悔やまれていたのである。そういう意味でも、今回のキッチン展は私にとって行かなければ後悔する展示会でもあったのである。

ミュージアム内の展示物は当然のことながら撮影禁止だが、このマイスターキッチンのみ受付で申込めば撮影許可が降り、ブログ掲載も可能とのことでここに画像を紹介することができたのである。上画像は、展示されたキッチン全景。

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年


ここが入口部分。キッチンは衛生上、料理する部分と洗い物をする部分が壁で仕切られている。床に壁の記しを描くことで、この位置に入口の扉があることが理解出来る。

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年


ここは洗い場の全景。細長い部屋に食器を洗うための流しとその反対側には食器棚がある。

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年


正面には大きな窓がある。このセットの上手なところは、窓や外の風景はフィルムで表現されていて、後ろから照明を当てることで、その場の雰囲気が良く表現されていること。ちょっと見では全くわからない。照明のテクニックが素晴らしい証拠。

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年


流し台部分である。食器は隣のキッチンの小口窓を通して運ばれるのであろう。一連の食器洗いのプロセスが動線に合わせて無駄のない動きが可能なようにデザインされているのが手に取るように理解出来る。
特に感心したのは洗い場にある食器洗浄専用のザルをそのまま左隣の台に載せられ、そこで水切りが出来ること。また食器を一時整理が出来る棚が流しの上にあり、食器洗浄の作業が効率良く出来るしくみが出来ていることである。水切り台は窓の横にあるため、窓下に設置しているHeizung(温水暖房器)の熱の流れに合わせて乾燥の一助となっているところも指摘しておきたい。

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年


次に料理を作るための厨房部分。考えてみれば、TEE用瘤付き食堂車(WRümh 131)も上階が調理室で下階が洗浄室である。これは衛生上よりも食堂部分の定員増が目的であると思うが...。

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

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汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年


このマイスターハウスのキッチン部分は、ガスオーブンや蛇口やディスプレイ品など一部設備には触れられないが、タンスの引き出しやドアノブなど、設計者であるヴァルターグロピウスの意思が隅々まで行き届いたデザインに触れて感じることが出来るのは嬉しい配慮である。

残り少ない展示会期であるこの展覧会は、建築、デザイン、写真などに関心のある向きにはとてもお薦めできるものである。開催は12日まで...。

参考サイト:バウハウステイスト・バウハウスキッチン展
http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/exhibition/10/100918/index.html

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タグ:Bauhaus

アルフォンス・ミュシャ展 [デザイン]

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▲ 第1会場の高崎市美術館

今日は、本来なら大学の授業日であるが、学祭のため授業はお休みである。そこでかねてから行きたかったアルフォンス・ミュシャ展に出掛けて来た。高崎のような中規模都市でミュシャの展覧会が行われるのは奇跡かも知れない。
これは高崎市がビール醸造で有名なチェコのピルゼン市と姉妹都市であり、かつ姉妹都市提携20周年にあたったこと。更には、今年がミュシャ生誕150周年記念であり、大阪堺市のミュシャを集めたドイ・コレクションを中心に、プラハ美術館やパリのオルセー美術館所蔵の作品なども合わせて、今年の4月から、岩手、東京、北九州に続いて高崎で開かれた巡回展があったからである。高崎の後、堺市などでもこの展覧会が行われるからである。

そのような訳で、以前一度ミュシャの展覧会を見た事があるのだが、その時は約25年前の大学生で東京であった。その時はかなりの人出でじっくりと見れなかったのを憶えている...が、今回は平日の高崎である。当時は、アールヌーボーが流行っていた時期であったこともあり、混んでいたのであろう。今回は、ほとんど誰もいない空間で本当にゆっくりとミュシャの生涯を時系列に従って鑑賞する事が出来たのである。

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▲ 高崎市美術館に掲げられている広告のアップ

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▲ 高崎市美術館の側面にも...Moet et Chandon広告のタペストリ

残念なのは、高崎市美術館のキャパシティが小さく、全ての作品を納められず、高崎駅の反対側にあるタワー美術館に第2会場を設けて2館で完結するということである。その2館は、駅から至近にあるのだが、今日のような雨模様だと歩かせるのは辛い。

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▲ 第2会場の高崎タワー美術館は、駅前マンションの3、4階にある。広告は高崎市美術館に比べて残念ながら地味。

さて、作品であるが前回見た記憶のある作品も少なからずある一方、初めて見た作品もあり、全体的に見応えのある展覧会であると感じた。ミュシャが最も輝いたパリ時代、当時有名な女優のサラ・ベルナールの舞台公演のポスターを依頼されて以来、彼独特のタッチで描かれたポスターは、当時の時代背景に見事にマッチし好評を博し、画家としてよりグラフィックデザイナーとしての仕事が多く来る事になるのだが、1品ものの絵画と異なるリトグラフで作成されたポスターは大量生産されるものである。当時のパリは、アールヌーボーの華やかりし時代で、ギマールの地下鉄駅や多くの建築に代表される植物をモチーフにした装飾芸術最後の輝きを放っており、誰にも理解し易い構図と美女の組み合わせは、その世界にぴったりとハマるミュシャのポスターとして、好評を博したに違いなかろう。(逆にビアズレーなどは、少々おどろおどろしい雰囲気で私個人は嫌いではないが、好みの分かれるところがあろう)

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▲ 第2会場の高崎タワー美術館入口

ここで私がポスターを見つつ気づいた点は、CIWL客車の室内装飾を手がけたルネ・ラリックとの関係である。実はラリックも女優サラ・ベルナールによって、その才能を開花した芸術家である。彼は、舞台衣装の髪飾りなど装飾品のデザインを手がけたが、改めてポスターを見ると、明らかにラリック特徴を持った髪飾りを纏ったサラの絵を見つける事が出来た。こうして見ると大女優であったサラ・ベルナールは、素晴らしい芸術家を2人も見いだしたのである。

こう考えれば、ラリックの素晴らしいコレクションを持つ箱根のラリック美術館と堺市のドイ・コレクションを合わせて当時のパリの市井の雰囲気を蘇らせる展覧会なども行われればと思いを馳せたのである。それにしても、これらコレクションは元々全て個人収集のものである。欧州から遠く離れた極東の日本にこれだけのものがある事自体(良し悪しは別として)大変なことであると感じるのである。それは日本人の見る目と、我々一般人が素晴らしい作品を気軽に見に行けることが出来るのは素直に嬉しい。

参考サイト:
アルフォンス・ミュシャ展
http://www.city.takasaki.gunma.jp/soshiki/art_museum/art/ten1003.htm

堺市立文化館アルフォンス・ミュシャ館
http://www.sakai-bunshin.com/mucha.php